ペレスの方針転換、それは彼の経営に対する柔軟な姿勢の裏返しでもあるが、そのパラダイムシフトが起きたのは「ペップ・チーム」の成功があったからに他ならない。ペップ・チームとは、ジョゼップ・グアルディオラ監督が率いたバルセロナの愛称だ。4年間で14個のタイトルを奪取したペップ・チームでは、リオネル・メッシ、シャビ・エルナンデス、アンドレス・イニエスタを筆頭に、セルヒオ・ブスケッツペドロ・ロドリゲス、ビクトル・バルデス、カルレス・プジョール、ジェラール・ピケとカンテラーノが主力となった。実に22名のカンテラーノが、グアルディオラ監督の下で、トップデビューを飾った。

 欧州とスペインで覇権を握ったバルセロナの成功を、ペレスは忸怩たる思いで見つめていた。しかしながら、実業家として名を馳せた彼は、ライバルから良いところを吸収し、ブラッシュアップして自分のものにするという強(したた)かさを持ち合わせていた。

 レンタルを駆使して選手を成長させるペレスの手法は十二分に機能していると言える。忘れられがちだが、カゼミーロはポルトで、今季台頭しているフェデリコ・バルベルデはデポルティボで研鑽を積んだ過去がある。そしていま、アクラフ・ハキミ、マルティン・ウーデゴールといった選手たちがマドリーの未来を担う存在として期待されている。

 皆、一度はマドリーの外に出ている選手たちだ。そういったプレーヤーに、マドリディスタが未来への想いを馳せるというのが、いつからか常態化した。それこそ、ペレスの策略であり、その過程でチャンピオンズリーグ3連覇という偉業を成し得ているのだから、文句のつけようがない。

 現在のマドリーにとって、カンテラは、育成の場であり、ビジネスである。ある種の矛盾を享受したペレスの頭の中では、いま、新たな銀河系軍団の構図が練られているかもしれない。

  1. 1
  2. 2