W杯ロシア大会のアクレデーション
W杯ロシア大会のアクレデーション
生涯観戦数は6400試合を超え、世界中のあらゆる場所でサッカーを観戦してきた後藤健生さんの連載「蹴球放浪記」。第7回は、サッカー旅に関しては名人中の名人、百戦錬磨の強者の、あの後藤さんにもスタジアムまでもたどり着けなかった試合について。それは、ワールドカップ本大会の黄金カードで起こった痛恨のアクシデントなのであった。

 2018年のロシア・ワールドカップでは、35日間、モスクワ市内北部のアパートを借りて過ごしました。1960年代に市内のインフラ整備を行ったフルシチョフ第一書記の時代にでも建てられた物件なのでしょう。古びて、ボロボロのアパートでしたが、寝室とダイニングキッチンに大きな冷蔵庫とレンジが付いていて、近所にはスーパーマーケットがいくつもあったのでとても便利でした。なんといっても、大きなバスタブがあって熱いお湯が出たのがありがたかったですね。ワールドカップ期間中は夜行列車で往復して早朝にモスクワに帰って来るなんていう日が何度もありますから、「家」に帰って温かい風呂に入れるのは本当に助かりました。

 ただ、メトロの駅から遠いというのが、出発前の心配の種でした。2号線のヴォイコフスカヤ駅から57番のバスに乗って10分弱くらいかかるんです。

 ところが、行ってみると心配は無用でした。なにしろ、モスクワの公共交通機関はとっても便利なんです。バスは5分に1台くらいの頻度でやって来ますし、いつも空いています。メトロもそう。階段を降りている途中で電車が出発しそうになっても、走る気にもなりません。待っていれば、すぐに次の電車が来るんですから。

 運転間隔は2、3分に1本といったところ。日本人は山手線やメトロの運転間隔を「世界に冠たるもの」と自慢にしてますが、上には上があるものです。「こんな頻度で走らせて、よく追突事故を起こさないな」と本気で感心しました。

 最新式車両も走ってますが、大半は年代物の車両です。定時運行を支えているのは最新システムなどではなく、職人技の世界なのでしょう。旧式の設備を使ってこんな運用ができているということは、ロシアというのはそれなりにきちんとした社会だということです、おそらくそのメトロを作ったソ連時代から……。

 滞在中には宇宙開発関係の博物館にも行きましたが、ソ連という国が旧式のお粗末な機材を使って人類初の有人宇宙飛行など数々の偉業を達成したのも、このメトロの運転ぶりを見るとなんとなく理解できるような気がしました。

 とにかく公共交通機関は便利でした。そして、メディア・センターでもらった交通カードを使えば、市内の交通機関はタダで無制限に乗ることができます!

モスクワ市内の無料交通カード(W杯仕様)
モスクワ市内の無料交通カード(W杯仕様)
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