移籍のローカルルールの必要性
――そうした育成を移籍を通じてビジネスとしても柱に据えられるよう、国内でローカルルールをつくるなら、どんなものが適切だと思いますか。
「先ほど話した、ホームグロウン選手に関するルールでしょう。たとえ契約が切れる年でも、例えば小学校時代から所属した21歳の選手には育成保障金(トレーニングコンペンセーション)が発生します。J2クラブへの移籍ならば、所属1年ごとに12歳から15歳は100万、16歳から21歳は400万円が育成したクラブに支払われるルールがあって、例えば小学校から12年いれば2400万円もらえるという規則です。
以前はもっと詳細なローカルルールがありました。今年戻ってきた石原直樹が大宮に移籍した時には、J2からJ1への移籍だったために金額が上がり、それなりの移籍金が発生しました。そういうルールがなくなり、やはり資金があるところが強いんだな、と感じますね。Jリーグができた当時の移籍係数を伴う独自ルールをつくった川淵(三郎)さんは、野球のようなパワーバランスに陥らずにサッカーを浸透させようと、よく考えたものだなあと思います。ドイツにもスペインにも、ローカルルールはありますからね。
ローカルルールは、特にホームグロウンに関しては、以前ほど高額でなくてもよいので絶対につくった方がいい。23歳以降の対応も考えるべき。Jリーグと日本のサッカー界のためになるし、J3といった下部リーグの活性化にも、絶対につながります。J3のクラブにとっては、たとえ500万円であっても残していってくれた方がいいわけですが、現状でなかなかうまくいっていないということのようです」
――田中純也選手(現ヴィッセル神戸)がポルトガルの名門スポルティングに移籍した際、違約金が6000万ユーロ(現在のレートで約72億円)に設定されたことが注目されました。そこまで極端ではなくとも、年俸と関係ない違約金の設定は無理なのでしょうか。
「ルールとしては許されますし、田中選手もそれでいいと認めたのでしょうが、日本国内でそういうことをしたら、それ以降誰も契約してくれません。1億円以上の違約金の設定をしても、契約更新のたびにチームに留めるために違約金を下げることになり、最終的に移籍をした選手もいました」
――では、湘南がこれから成長するにはどんな方法がありますか。
「海外と直接、コンタクトをしていきたいですね。ヨーロッパでは、国境を越えても車で30分、飛行機で1時間といった距離ですから、リーグの境を越えて盛んに移籍が行なわれ、大きな金が動きます。前FC東京ゼネラルマネジャーの立石(敬之)さんは、まさにそういうことをしたくて、今はベルギーのクラブにいます。うちで育った(遠藤)航も、立石さんのシント=トロイデンからドイツのシュツットガルトへ移籍していきました。
一方、日本からヨーロッパまでは飛行機でも10時間以上かかります。それでも、日本も同じサッカービジネスというフィールドにいるんだ、という想定で仕事をしなければいけないんです。
うちのクラブに魅力があれば、ヨーロッパから直接コンタクトしてくるでしょう。魅力とは、つまり金です。ヨーロッパから見れば安い金額で移籍してきた日本人が、さらに高額のお金を動かす選手になれば、向こうからすればうれしいわけです。だから航には後輩のためにも頑張ってほしいですね。
うちから羽ばたいていく選手にお願いしたいのは、必ず中田英寿と洪明甫がいたチームから来たと言ってくれ、ということです。ヒデは最終的に、34億円を動かすまでの選手になりました。明甫は現在、韓国サッカー協会の専務理事で、実質的なトップと言えます。日本はヨーロッパと離れているけれど、可能性がないわけじゃないんです。
航がさらに大きな移籍を続けていけば、もともと育ったチームに興味が向きますよね。だから活躍してほしいですね」
(第3回に続く)
眞壁潔(まかべ・きよし) 1962年、神奈川県平塚市生まれ。ベルマーレ平塚(当時)が存続危機に陥った1999年に、地元の平塚市商工会議所青年部の一員として、クラブに関わるようになる。クラブの取締役を経て、2004年に代表取締役に就任。Jリーグや日本サッカー協会の理事も歴任し、湘南ベルマーレでは2014年から会長。