生涯観戦数は6400試合を超え、世界中のあらゆる場所でサッカーを観戦してきた後藤健生さん。その貴重な体験をつづる連載「蹴球放浪記」が2020年4月にスタート。記念すべき第1回は、1974年、初めてのワールドカップ観戦。22歳の後藤さんは、とんだ災難に遭遇したのであった……。
生まれて初めてサッカーの試合を見た1964年の東京オリンピック以来チケットをコレクションしているんですが、最近のチケットはあんまり面白くないですね。オリンピックやワールドカップともなると色鮮やかなデザインになってはいるんですが、どの試合もデザインは一緒で、ただ日付やスタジアム名が印字されているだけです。
その点、いちばん機能的で美しく出来ていたのは初めて見に行ったワールドカップ、1974年の西ドイツ大会のチケットですね。そう、ベッケンバウアーとクライフの大会です。試合の日付や会場やカテゴリーによって、さまざまな色が使い分けてあって、それが組み合わされているのですべて違うデザインになっているんですよ。
なにしろ日本人がワールドカップを見に行くことなどほとんどなかった時代だったんでチケットの買い方も分かりませんでしたが、ルフトハンザ航空が代理店だということが分かったので霞が関ビルの東京支店に行ったら申込書が置いてあって、「スコットランド対ザイールのカテゴリー3を1枚」というふうに記入して申し込んでおいたら、すべて希望通りのチケットが買えました。良い時代だったですねぇ。
今とは違って、あの頃の大会は同時刻に何試合もやっていたり、試合のない日があったりしたので最高でも12試合しか見ることができませんでした。で、12枚のチケットの束を持って旅立ったわけです。横浜からソ連の船に乗ってナホトカに渡って、モスクワ、ワルシャワ、東ベルリン経由で西ドイツに入りました。