2019年夏の移籍市場で、若きタレントにアトレティコ・マドリーが目を付ける。移籍金1億2700万ユーロ(約152億円)で、ジョアン・フェリックスを獲得した。クラブレコードの移籍金で、バルセロナに移籍したアントワーヌ・グリーズマンの代役にジョアン・フェリックスが選ばれたのだ。かくして、「ベンフィカのラベル」が貼られた選手が、また一人、羽ばたいていった。
識者の中には、彼を「新たなカカー」と称する者がいる。大きなストライドで対峙する相手の逆を突きながら、スピードに乗ってドリブルする様は確かにカカーを彷彿させるところがある。ただ、現代フットボールにおいては「トップ下」のポジションが実質上存在しない。ゆえに、ジョアン・フェリックスに求められるのは、よりフィニッシャーとしての役割だ。そして、そのポイントこそがC・ロナウドを超えられるかどうかの鍵を握る。
ユーロ2004の準々決勝イングランド戦で、ルイス・フェリペ・スコラ―リ監督は、1点ビハインドの後半途中にルイス・フィーゴに代えてエルデル・ポスティガを投入した。若きC・ロナウドではなく、主将のフィーゴを下げたのだ。そしてポスティガのゴールでポルトガルは同点に追い付き、PK戦の末にイングランドを破っている。それは世代交代を象徴する場面だった。
当時、フィーゴは31歳、C・ロナウドは19歳だった。現在、C・ロナウドは35歳、ジョアン・フェリックスは20歳だ。曲線はどことなく重なる。
新型コロナウィルスの影響で、ユーロ2020は一年の延期が決定している。ユーロ2020が開催されていれば、フットボール史に残るようなシーンが見られたかもしれない。
ただ、言えるのは、ジョアン・フェリックスがユーロ2020のスター候補の一人だったのは間違いないということ。そして、彼こそがポスト・クリスティアーノ時代を担う存在であるということだ。