岡田メソッドがチームに実装されていて、それがしかも結果に出ている

 多忙な岡田だけに、打ち合わせのためプロデューサーの山下氏が今治に出向くことも2回ほどあった。そこで目にした光景が、山下氏には忘れられないという。

「岡田さんがよく行くお店にご一緒したときに、お店にいた若い方々が“岡ちゃん! 写真撮って”と言ってこられて。そのやり取りから、親しみがあるけど馴れ馴れしすぎず、敬意があり、岡田さんを応援したいという気持ちが伝わってきたんです。そのちょうどいい関係というのが、今治の人と岡田さんの間にできているんだな、と実感しました。

 今治に行かれた当初はきっと、よそ者が来て、どれだけ本気なんだという目で見られていたと思うんです。それが次第に認められて、ひとりひとりの心が動いして。岡田さんだけでなく、FC今治のコーチたちも幼稚園や学校に行って指導されていて、町とクラブがほんとうの意味で一体になろうとしているのを感じますね。

 そして、FC今治の下部組織の練習を現地で見学したときに、この本に書かれていることがまさに目の前で実践されていたのには感激しました。ああ、いまのは3aのサポートだ、あれは3bのサポートだと。共通言語があり、それに合わせた動きがされている。岡田メソッドがチームに実装されていて、それがしかも結果に出ている。昨年はU13の四国リーグではJ2の強豪をおさえてダントツで優勝しています」

岡田氏の「的確なパス出しと意思決定の早さ」に助けられたという山下氏

『サッカー批評』を愛読していたという山下氏だが、日本代表監督としてではなく、著者としての岡田武史はどのように映ったのだろうか。

「岡田さんと本づくりでご一緒して印象的だったのは、この本にかかわっている多くの人たちの本領を発揮するための、これどう思う?”といった的確なパス出し、そして意思決定の早さですね。

 岡田さんが意思決定しないと始まらない、動かないところもあるので、みんなが動きやすくなる、本領を発揮しやすくなるように、なるべく早く意思決定する、早く問題提起するということを、率先してやってくださった。そうした岡田さんのリーダーシップが、この出版プロジェクトにとてもポジティブな影響をもたらしたと思います」

 2014年に岡田がオーナーになり、17年にJFLに参入、20年にはJ3に昇格したFC今治。『岡田メソッド』は確実に実を結んでいる。

「4年かけて今治で試行錯誤して、確かな成果も出てきている。でも、『岡田メソッド』の冒頭で書かれているように、岡田さんたちの挑戦はまだ始まったばかりです。

 本を出して終わりではなく、岡田メソッドもプレーモデルも日々アップデートされていっているのだと思います。J3での挑戦はもちろん、NECとのコラボレーションによるIT化、高校の部活での実証実験など、岡田メソッドの進化がこれからも本当に楽しみです」

おかだ・たけし 大阪府立天王寺高等学校、早稲田大学でサッカー部に所属。同大学卒業後、古河電気工業に入社しサッカー日本代表に選出。 引退後は、クラブサッカーチームコーチを務め、1997年に日本代表監督となり史上初のW杯本選出場を実現。その後、Jリーグでコンサドーレ札幌、横浜・F・マリノスの監督を経て、2007年から再び日本代表監督を務め、10年のW杯南アフリカ大会でチームをベスト16に導く。中国サッカー・スーパーリーグ、杭州緑城の監督を経て、14年11月四国リーグFC今治のオーナーに就任。日本サッカー界の「育成改革」、そして「地方創生」に情熱を注いでいる。
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