
地元メディアでごった返していたACLE決勝後のキング・アブドゥッラー・スポーツシティ・スタジアムのミックスゾーンも、試合から3時間が経過すれば閑散としていた。川崎フロンターレの番記者4人しかいないそのエリアに、チームスタッフ一人と歩いてきたのは川崎フロンターレの山本悠樹だ。
川崎フロンターレとアル・アハリが雌雄を決したこの試合で、山本はドーピング検査の対象となっていたが、激闘を戦い抜いたことで実際の検査になかなか進めなかった。その結果、両チームの選手・スタッフが引き上げたあとに一人でスタジアムを去ることとなった。
山本は4人の姿を見ると、「え?」と声を出してやや微笑む。知った顔があることに意外だったのだろう。それほどに、決勝後のスタジアムはもぬけの殻となっていたのだ。
そんな山本が抱いている気持ちは分かり切っていた。それでも、“申し訳”と謝罪しながら今の気持ちを言葉にしてもらうと、「そうですね……ありきたりの言葉で言うと“悔しいです”って感じですけど、力負けしたなっていうところもありますし、はい……この景色は忘れないだろうなと思います」と話す。
これまでプロサッカー生活においてタイトルを取ったことがないと話していた山本にとって、一番悔しさが募った場面はどこか尋ねれば、「やっぱり表彰台やってる時じゃないですか。あの時の疎外感というか、あの景色で素晴らしいスタジアムでしたし、完全アウェイで、忘れないだろうなと思います、今後」と話し、「ずーっと見てました。もう刻んでやろうと思って」とも続ける。