■繊細なグアルディオラ監督の流儀
試合前やピッチにまく水の適切な量を決めるのは、そう簡単な話ではないらしい。クライフのまな弟子と言っていいペップ・グアルディオラが監督を務めていた時代のバルセロナ(2008年~2012年)では、ハーフタイムのロッカールームにグラウンドキーパーがはいってくることが珍しくなかった。彼は分単位のスタジアム周辺の天気予報のデータをキャプテンやコーチに見せ、後半に向けどのくらい水をまいたらいいか、要望を聞いていたという。
日本のスタジアムでは、ボールが転がるたびに水を巻き上げている光景(明らかに水のまき過ぎだ)や、散水した水の小さな粒が芝生の表面について、まるで霜が降りたかのように芝面が白く見えるところがある。そうした「霜降りピッチ」では、試合が始まってからしばらくは選手の足跡が見えたり、ボールが転がった軌跡がまるで絵を描いたように見える。かつての国立競技場がそうだった。
散水方法や風向きによって、スタンド前列の観客が「被害」をこうむることも少なくない。夏なら冷却効果があって好ましいかもしれないが、2月や12月などの寒い時期に予期せぬ(シーズンチケットホルダーなら先刻承知か)「雨」にずぶぬれになったら悲惨だ。埼スタでは、散水が始まる前、タッチラインの中央、ピッチのすぐ外のグラウンドレベルに置かれたテレビカメラには、しっかりとビニールのカバーがかけられる。
天気の良い日の午後の「水芸」には、その幻想的な光景とともに、ひそかな期待がある。「虹」である。メインスタンドに座っていると、背後からの太陽がピッチのバックスタンド側の半分、日差しがまだ当たっているあたりの「水柱」に当たる。すると当然、虹が出るのである。
舞台でお姉さんたちがやる「本家水芸」をサッカースタジアムの「水芸」が超えるのは、まさにこのときなのである。