大住良之の「この世界のコーナーエリアから」第134回 オランダVS日本「ボール救出」合戦(1)オランダ人が無粋なフェンスより好む「輪と棒」の画像
ユトレヒトのグラウンド。よく見ると、芝生の間に何やら怪しげな器具が…(c)

 サッカーは無数のディテール(詳細)であふれている。サッカージャーナリスト大住良之による、重箱の隅をつつくような「超マニアックコラム」。今回は、「オランダ・サッカーの知られざる文化」について。

■安くないボールを「1試合も使わないうちに」

 私が監督をしている女子チームの練習は、たいてい10数人で行う。サッカー場1面を借りても、なかなか全面を使うような練習はできない。使うのはたいてい半面だけなので、そのたびに何か申し訳ない気持ちがする。サッカー場の外で数人の男の子たちがボールを蹴っているのを見ると、「半面しか使わないから、向こう半分でボールを蹴ってもいいよ」と声をかけたりする。

 ある土曜日の練習で、初めて使う荒川河川敷のグラウンドに行った。広い河川敷。ピッチ4面が、2面ずつ2列、川に向かって縦に並んでいる。私たちに割り当てられたのは、その川に近い1面だった。

 4面のピッチとピッチの間にはフェンスなどない。「土手側」のゴールは、シュートが外れたらボールが隣のピッチに飛び込んでしまう。一方の「川側」のゴール裏には、高さ1メートルほどのフェンスがある。シュートに自信がないのか、選手たちはそっちがいいのではと言ったのだが、私は迷わず、すぐ背後にもう1面のピッチがある「土手側」のゴールにネットを張ってほしいと選手たちに指示した。外れたシュートが川まで行ってしまうのを心配したのだ。

 50年以上も前、男子チームでプレーしていた頃、多摩川の河川敷グラウンドで、下ろしたばかりのボールを川に流してしまったことがある。このときも、ひとつのゴールの背後がすぐ川だった。といっても、グラウンドと川との間には幅15メートルほどの空き地と、丈の高い植物に覆われた10メートルほどの草むらがあったのだが、ある選手の放ったシュートは、軽々とそのすべてを超え、多摩川に飛び込み、アッという間に羽田空港の方向に流れ去ってしまったのだ。

 安くないボールを、1試合も使わないうちに失ってしまったショックは、いまでも忘れられない。以来、河川敷のグラウンドではゴールの方向を気にするようになったのである。

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